幼稚園のころ、いつも、髪を長く伸ばしてる同級生の女の子たちがうらやましかった。

自分も、長くして、かわいくくくってもらいたかった。

女の子には、小さい頃しか似合わないヘアアレンジがある。

ふたつに分けて三つ編みとか、ロングヘアの上部左右だけを飾りのついたヘアゴムで結ぶとか。

 

なのに、いつも、男みたいなショートにされていた。

ボブですらない。ほんとに、短く短くされていた。

思い出すだけで忸怩たる思いになる。

それだけ短いと、寝ぐせがついても直せないし、そもそも今思い出すと、ドライヤーをかけてもらったこともなかった。

いつも、タオルで適当に拭いておしまい。

そうやって、半乾きのまま寝させられるから、翌朝寝ぐせになるのだ。

 

幼稚園の頃はずっと、女なのに男みたいな格好させられてて、不本意だった。

女の子らしい格好をしている子を見ると、憧れた。と同時に自分が悲しかった。

幼稚園児の頃から、既に、自分はかわいいタイプの顔立ちではないことに気付いていたからせめて、髪くらい女の子らしくしたかったのに。

だから、今でもかわいい女の子とか、少女っぽい格好とかにすごく憧れる。

そういう画像を、何千枚も集めてる。

それで、異常に、レースとか、フリルの服が好き。

ドレスみたいな服を普段から着たい。

子どもの頃にできなかった事を、一生かけて、取り戻したい。

だから、実家出てからはすごーく身なりに気を遣ってる。実家でできなかったぶん。

 

小学生になってもまだ短くしろ、短くしろ、と言われた。

いつも、母親に美容院に連れていかれ、短くするように母親がオーダーを出してた。

親は、子どもの髪を手入れする気はさらさらなくて、短ければ手がかからなくて結構、としか考えてなかったんだろう。

自分は高い服とか化粧品とか着物とかいっぱい買ってるくせに。

近所の、祖母と同い年の、昔祇園で髪結いをしてたという美容師さんがやってるパーマ屋で長い間切ってもらっていたが、「ほんとは伸ばしたいの?」と聞かれたことがあった。

髪を切りたくなくて、屋根裏の押し入れにこもったことを思い出す。

 

小三くらいで、やっと髪を伸ばせるようになった。

その後、中二のほんの一時期ショートにしたくて切ったが、またすぐに伸ばした。

一生、ショートにはしたくない。そもそも、似合わないし。

 

小学校の頃はシャンプー禁止で、母親だけが、子どもに隠れて(隠しているつもりで)シャンプーを使っていた。

父親が、今でいう「自然派」的な考えで、カルトみたいに、狂信的に自分の、偏った「ぼくがかんがえたさいきょうの」「ポリシー」を押し付けてくるから、シャンプーはダメ、シャンプーは使うな、とガミガミガミガミ言われて、シャンプーを使えなかった。

小学校のクラスで、社会の授業中に、シャンプーとリンスの容器を、目の見えない人がどうやって判別するか、という話題の時に、シャンプーを使ってないのは自分の家だけだと分かって、それで、またますます自分の実家がおかしいことが白日の下にさらされ、自分は悪くないのに、すごく嫌な気分になった。そしてまたしても自分の生まれ育った家に絶望した。

水泳をやらされていて、塩素で髪が傷んでいるのに、石鹸で髪を洗わないといけないせいで、余計ゴワゴワになるから悲しかった。

ますます早く実家を出ていきたい気持ちが募った。